探偵file.3 旅立った友人【人探し】
「お願いします、助けてください」
軽快なフリーダイアルの呼び出し音の後、その声とは対照的に悲痛な声で鳴き声とも嗚咽ともわからない声が飛び込んできた。
「どうされましたか?」
「友人が...連絡取れないんです」
声の雰囲気から中年女性のように思える。
とにかく詳しく聞かせて欲しいとなだめ、まずは事務所で会う事にした。
依頼者になる女性は40歳、SNSで知り合った男性と仲良くなり毎日のようにやり取りをしていたという。
中年以降の恋愛か、好意を出しながらも交際に発展せず。いつかは会いたいとお互いに言っていた。
その女性も喋っている雰囲気から察するにまんざらではなかったのだろうか。
ところが、ある日を境にSNSの更新が止まり、一切の連絡が取れなくなったという。
「あの人、途切れる直前に体調が悪いって言ってたから...」
どうか探して、家の様子を見に行って欲しい。嫌われたのなら会えなくてもいい。
無事がわかればそれだけでも構わない。
そこまで言われるならストーカー規制上の問題もないし、なによりやり取りの事実も確認ができた。
やるか...。    

SNSのつながりのみ

まず、調査については2段階に分けることにした。
SNSのやり取りで住所を知らない、これが一番の障壁になる。
・居住地調査
・現地調査
大まかに聞いている話では「滋賀県に住んでおり、自営業で通販のような物販をしていた」だけである。
まずは居住地に着手する事になった。
しかし費用は高額になる。どこに住んでいるかまったくわからない人間を調べる。そして出張。
これだけでも大きい。
「構いません、お金の問題ではないので。その代わり必ずなんとか見つけてください」
契約書にサインをする手が震えているように見えた。
私たちも覚悟をする瞬間だ。

住所も本名も不確かな人探しをする時の情報源

調査について、SNSの履歴を追う事にした。
SNS自体は5年、割と長い。情報量としては十分だ。
ポイントになる写真が何枚か出てきた
1)コンビニの店名が入ったレシート
2)利用しているコンビニは同じ
3)在住している市区町村
4)近所の写真
5)部屋の窓の形
6)部屋の間取り
さらに調べていくといくつか確認できる内容があり、照合をかけていく。
「ここで間違いないな」
とある住宅街のマンションが該当した。また、別の調査で本名も明らかになる。
2日目で判明したのは割と早い方だ。
こうなったら現地に行くしかない。
依頼者に出張費用の目安を伝えた上で(日程により航空代金が変わる為に、直前で伝える事にしている)向かう事にした。

現地に到着

S市は近隣に空港がなく、中部国際空港セントレアからレンタカーで走る事にした。
到着した市は人口もそれなりにある、市街地だった。訪問は8月、とても暑い日でセミがうるさい。
アスファルトの上が揺らめく、車のエアコンを強くした。
(意外と栄えている)
失礼な事を考えながら、食事も摂らずにまっすぐマンションに向かった。
まずはポスト内をチェックする、郵便物は溜まってはいるがトラブルがあった時の特有の溜まり方はしていない。
鍵はかかっておらず、最終日が一週間程度だろうか。いくつか督促状も混ざっていた。
本名を確認した所一致した為、部屋に向かう。
「〇〇さん!」
インターホンの応答がないため、大き目の声で声をかける。
デリカシーはないが、ここまで来たので会うまで帰れない。上下隣に声をかけたが、応答がなかった。
仕方ない、もう一度ドアポストでも覗いてみるか...。
ドアポストを少し開いた瞬間、独特の経験のある臭いが鼻につく。
(しまった、ダメか)

孤独な死

警察がやってきたのは、それから間もなくの事だった。
エアコンがよく効いていたので、まだそれだけでも幸いだったと。
ほどなく大家が来て「ありがとうございました」と。大家からすると破損も気になるのだろう。
そして、大家は対象との旧知の仲でもあった。
警察の調べを追えた後にゆっくりと聞いた話はこうだ。
「彼は、家族と別れてから孤独でした。自営業をしていましたが、急な景気の悪化で最近はままならなくなり、家賃も待ってくれという事が増え、私も心配はしていたんです。詳しい内容は知りません。ただ、別れた息子たちに自分の今が届いてほしくてSNSを続けているんだと話をしていました。だからアカウント名が〇〇だったんです。親族の方の連絡先を知っているので伝えます...」
その間も依頼者からのLINEは止まらない「どうだったんですか!?」と。
数行で伝えるには難しい。
とにかく帰るまで少しだけ待って欲しい、と伝えてホテルで報告書を作成する。
製本はPDFをメールで送って作っておいてもらう事にした。

翌日、一番早い便で新千歳に戻る。朝はまだ寒い。
空港隣接においた調査車両に乗り込み、帰りに向かう。
まだ少し時間がある、輪厚に寄ろう。
SAで缶コーヒーを買い、一服しながら考えた。
(どうやって伝えて行こう)
もちろん嘘はつけないが、依頼の様子だとストレートに伝えるとあまりにショックが大きいだろう。
かと言って、伝えないという事はない。
考え事をしていたら一瞬でタバコが無くなった。

辛い報告

事務所に帰り、書類の確認をしている間に依頼者が到着した。
「あの...どうだったんでしょうか。やっぱり私、嫌われていたんでしょうか」
「実は、警察対応が長くなり。LINEの返信が遅れました」
「えっ?」
大きな声を出して、目を見開いた依頼者、もう言うしかない。
「実は、私たちが行った時にはお亡くなりになっていました。」
「私が...もっと...早くに依頼していれば......」
崩れ落ちるように机の下を見つめ、いや、見つめていたのはもっと先かもしれない。
「対象となる〇〇さんは独身で、他に身寄りもなかったそうです。この先は親族の方が」
と、説明するが、うなだれるだけで反応がない。
子供、別れた家族が居る事も報告し、終了した。
それからも何度か(私が心配しているのを知ってか)マメにLINEもいただき、お墓、大家さんからお聞きした事、警察から連絡があった事などを連絡し合い、秋になったころ
「少し気持ちが落ち着いてきました、前を向きます」
という返信を最後に連絡が終わった。
その後、彼女から「結婚します」と。
一通のハガキが届いたのは翌年の春だった。

 

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