横領事件の定義
窃盗=他人の物を盗む行為
横領=自己の占有する他人の物を横領する
人から預かったものを自分の物にしてしまう行為が横領になります。
横領罪は非常に重く、10年以下の懲役となっています(Wikipedia)
会社では、従業員に金員やそれに準ずるもの(換金できるもの)を預けざるを得ない場面が多々あります。例えば、
- 切手を購入して管理させる
- 家電購入のポイントカードを預ける
- 給油チケットを預ける
- 集金を任せる
- 材料の仕入れを管理させる
- レジを任せる
- 事務所の鍵を預ける
- 金庫の開閉を許可させる
数えだすとキリがありません、企業活動においては信任を前提とし預けるしかないからです。これらを預かる従業員が、何かのキッカケで少額をくすねる事から始まります。少額多額を問わず、企業活動で得る売り上げというのは従業員一同のお金と同然です、許すことはできない行為です。
横領が発生する環境
発生時は、おおよそ人の目につかない状況で素早く行われます。手口は以下のようなものです。
・他の従業員が目につかない瞬間
材料をくすねる場合、犯人が誰の目にもつかない瞬間にかばんに入れるでしょう。レジから現金を抜くときも一瞬でしょう。換金のできるものであれば、自分一人の時に帳簿、台帳を修正し使った事にして抜き取るかもしれません。集金は、まだ回収できていないと嘘をついて売掛として持ち帰るでしょう。
・誰もいない夜間、合い鍵を使って
鍵を従業員に預けるというのは、経営者にとってはリスクのある行為です。各種書類からの漏洩や、盗難、企業活動の基盤となる場所の出入りを許可するわけですから、信任にはそれなりの勇気がいります。これを裏切り、夜中に忍び込んで金員を盗むわけですから、これは出来心とは呼べません。
・帳簿を修正
日々の帳簿で金員を管理するはずが、どこかの隙間を狙い帳簿修正を行います。業務に従事する担当者が修正を行う訳ですから、発覚が遅れてかつ詳細を判明させるのが難しい横領です。単純なものだと、飲食店でオーダーを受けて伝票を作らずに売り上げを抜き取る。などもこれらに含まれます。
ケース
当社が実際に関わった例を当時の写真付きでご紹介します。
業態:店舗
実行犯:従業員
手口:帳簿修正
経緯(特定を避けるため一部脚色)
相談
店舗を運営するK氏より依頼があったのは、ずいぶん前。
「どうやら最近現金が合わない、感覚でしかないが」
という相談。実売り上げと入金の相違から着手する事となった。
調査開始
まず、営業終了時に営業帳簿をすべてコピー、現金回収されるのが翌朝との事で深夜の侵入も警戒。空き巣が夜中に抜く可能性もある。弊社担当者3名で交代で張り込みを行い、事務所への出入りをすべて監視および、営業終了後に置かれた現金をすべて撮影、札番号もすべて控えた。夜間出入りがないことを確認し、回収担当(回収後、銀行へ入金)が現れるのを撮影、回収担当がいなくなった事を確認し、現金がすべて業務的に回収されている事を撮影
発覚
調査開始から3日後、異変が起こる。前日に撮影した伝票が数枚消えている。そして、一部修正(もちろん減額で)が行われていた。数日繰り返すと、この修正に増額もあり良心の呵責があるのか戻されている事もある。犯人は回収担当者と特定した。K社長が全面的に信頼していた従業員だった。
証拠撮影
横領と断定するには、計算間違いの可能性も捨てきれず、繰り返し撮影を行うことに。犯人には悟られないよう、小型カメラを仕掛けた。ただし、女性従業員が更衣する場所でもあるために無用な誤解を招かないように小型カメラは即日回収。日々超小型CCDカメラで定点撮影を繰り返したある日、次のような証拠が撮影できた。
(犯人が現金を抜き取り財布に入れる瞬間)
※プライバシーに配慮し、完全にモザイクをかけています。
これでもう言い逃れはできない。
証拠固め
社長のK氏と相談し、経理担当者を交え過去2か月に渡り伝票をチェック。売り上げ修正が行われているために事実確認に難航。通話履歴や営業担当者の確認、それに加え、振り込みやカード決済も含まれる為、税理士も交えて数字を追いかけることに、しかも業務終了後しかできない為に連日の深夜作業。経理担当、社長のK氏が疲れ果てた頃に集計は終わる。
結局、明確に追及できる金額は120万円程度と断定
K氏の感覚だと200万円は足りないとの事
追求
事前に従業員に説明を行い、本人にはなにも知らせずに出社を待つ。会議室にすぐに呼び出し、全員の前で売り上げ管理について話し合い。という名目で始まる。
K氏「君は現金を扱う最前線だが、どう扱っているか」
⇒「私は大事な会社のお金なので、すぐに集金袋に入れます」
K氏「間違いないね、両替のために自分の財布などは扱ってないね」
⇒「ありえません」
K氏「前日の売上伝票の数をチェックしているか、件数はわかっているはずだが」
⇒「しっかりと確認しています、間違いありません」
先に言い逃れができないように、確認を取る。そしてK氏の怒号が飛ぶ
K氏「お前!だったらこの写真はなんだ!!」
真っ青になる回収担当、同席の私はこれで終わったな、と思いきや
⇒「僕は盗っていません!!!」
大泣き顔で釈明する担当者、何を言ってもムダ、泣くばかり。
K氏はトドメを刺すように「だったら警察に行くか」と言った瞬間に真っ青になり
「僕は盗っていませんが、社会的な責任は僕にあるので支払いはさせてください」
という意味のわからない事を言い出す。犯人じゃないならなぜ払う?
全員が豆鉄砲を喰らったような顔の中でK氏は
「だったら一筆書け」
と損害額のすべてを支払う旨と、会社を去ること、そして債務関係をなしにすること。これらを条件に回収担当を去らせました。
私は「警察じゃなくていいんですか?」と尋ねたところ、
K氏「警察なんて執行猶予でしょ、だったら賃金を示談金にして損害額を回収したほうがマシですよ」
K氏「それに、全員の前で禊は終わったし、会社を騙すと許さない。というパフォーマンスにもなりました」
と涼しい顔で経営者らしい答えを返してくれました。たしかに、会社から横領すると許されない。というのを従業員に見せつけるのは必要だなという印象を受けました。
結局、本人はまんまと逃れたと思っているようですが、証拠も揃い逃げ道もないなかで逃げ通せたと思っているのでしょうか。
編集注:給与からの天引きは労働基準法で厳密に管理されている為、この時は現金で支払ったうえでその場で回収するという方法が取られました。
難しさ
ケースで書いたように、まず立証作業に非常に手間がかかります。特に伝票操作の場合は過去に遡るために業務をよく知った人間が追う必要があります。次に、犯人の可能性が幅広い為に、最初の調査方法について慎重に行う必要があります。立証できる部分が損害額になるので、どこまでやるべきなのか検証範囲の見極めが肝心です。
示談と刑事告訴
警察からしても業務上横領は非常に手間のかかる事件で(難しさで記述のとおり)すべての経理伝票のチェック、関係者からの調書を取る必要や、追いかけるのに時間を要します。もし刑事告訴したとしても、100万円以下は執行猶予がつくようです。罰金刑はないので、被害額が少し大きくなれば実刑でしょう。それよりも、本人の反省をうながして回収(示談)する方が有利ではないでしょうか。言い逃れのできないレベルまで証拠獲得する必要はありますが。
対策
ダブルチェックが金員管理の基本ですが、おおよそは実務上できない事が多いようです。横領を働くような人物というのは、社会性に乏しくロクなものではありません。どれだけ厳しい体制を敷いても、隙間を狙って盗もうとしてきます。銀行や役所ですら横領が発覚するのですから、経営者としては頭の痛いところです。長い目で見れば防犯カメラなどが有効でしょう。「この経営者は甘くない」という雰囲気作りが大切なようです。飲食店であれば究極の対策は自動券売機のようですね。
調査における証拠獲得
ケースの通り、犯行場面を押さえるのに探偵の調査は役立ちます。出入りのチェックや撮影、小型カメラという領域では得意分野となります。警察権限はありませんが、出入り業者への内偵調査もお任せいただけます。細かく情報、金員の出入りのチェックをお手伝いできるでしょう。
依頼
調査対象にあわせ調査方法の組み立てが必要ですので、詳細を密に伺ったうえでお見積りを出します。また、こういった調査は隠密に進める必要があるために連絡方法やご担当者様についても事前にご一考ください。
2024.01.16 更新