さらに調査へ
それにしても、戦士君のLINEの相手は誰だろう、Kは
「きっと奥さんじゃないですか」
と言うが、表の子供の自転車を見るとどう見ても高学年~中学生に見える。そんな長年の夫婦が「会いたいよ」とか♡マークでやり取りするとは思えない。そして、青い封筒の住所の家はなんだろうか、こんがらがってきた。腰を据えてまず、夜中に明かりのついていた家を調べようという事になった。
結果が出るまでそれほど時間は必要ではなく、県営住宅で住んでいるのは妻と息子であった。住んで10年以上経過しており、内偵調査で奥さんは遠県から嫁いできて旦那(戦士君)は地元らしい。戦士くんは親兄弟とは疎遠で、家族で暮らしているという情報を得た。
Kの提案で、奥さんへの直接調査(内偵)も行った。今回は依頼者と接点がない事から大丈夫だろうと判断し情報を取りに行くと、家庭ではトンカツ屋が忙しく仕込みで夜も帰れない日が多いとか、休みはほぼ0日だとか、給料は定額しかもらえないとか、わかりやすいキーワードがどんどん出てきた(どうやって家庭への調査をしたかは調査上の秘密という事で)さすが元セールスのKは必要以上の情報を仕入れてくる。奥さんと偶然出てきた子どもの写真もKはしっかりと撮ってきた。
まとめるとこうだ
・休みがないというのは事実でなく、休日どこかにいる
・夜も帰れないというが、実際はどこかに出かけている
・給与はそれなりにあるはずだが、家庭には定額した渡していない(驚くような低額だ)
・そして女性とのハートマーク付きのLINE
・実際に勤務先が真っ暗闇なのにでかけている
・不在中にゲームにログインしている
・ネカフェではない
ここまで出たら推察は一つ、戦士君にはもう一人女がいる。
どうしようもない男
まず仮定として、戦士君はゲームをするのは場所を問わないはず。自宅に帰らずどこか立ち寄っている形跡がある事、帰りが遅く自由になる金がある事。これらをまとめ、徹底的に戦士君を追尾する事にした。
依頼者が連れていかれたワンルーム(実は依頼者は場所を覚えておらず勤務先からの尾行に時間を要した)が判明し、調べたところ部屋は2階の端、部屋の契約者も戦士君の氏名で一致したので、本人のサブルームだと確定。今度はここを夜中心に張り込むことにした。
数日経った後、依頼者から「終日連絡が取れない日がある、と事前に言われた」の情報を元に、その前日が決戦日だとKと張り込みを続けると、戦士君と同じぐらいの妙齢の女性が仲良く部屋に入っていくところを発見、撮影を行った。戦士くんと同じ40歳ぐらいだろうか。ストレートの黒髪が綺麗な、依頼者や奥さんとはまた違ったタイプの女性だった。
戦士くんは、ゲーム内で知り合った女性と婚約の話までしておきながら、妻子もいる。そしてさらに愛人もいた
依頼者からはひっきりなしに連絡があるが、どこまで伝えるか迷う。可能性を含めて「既婚であり、女性がいる可能性もある。断言するだけの情報を集めるので報告書を待ってほしい」と伝えたうえで少し待ってもらうことにした。
待たされている依頼者(特に恋愛・不倫)は、依頼してからはほとんどの方が苦痛を伴う。男性は逆にアッサリしている事が多い。
翌日遅くまで部屋の明かりがついており、消えるのを確認して翌朝まで同じ場所で待機する。Kと二人で「照明消えたし寝ちゃったかな」「油断はできないね」と話つつも交代で仮眠を取りつつ張り込む。季節はもう冬は終わりかけているものの雪があちこちに残っており、底冷えがする。幸いなのは駅前で近いことでエンジンを珍しくかけられることだ。職質の気配もない。時々起きては二人で勝手な憶測を立てつつ(噂話という意味ではそうだけども、行動パターンを予測する意味もある)待つことした。朝の10時を過ぎた頃、Kが「他に出入り口見落としてないですか?」と言うので、車を降りマンションの周囲を見に行くかとドアノブに手をかけた頃合でカーテンが開いた。朝もすっかり過ぎて昼前に二人で仲良く出てきたので、尾行を開始。相手の女性も自宅へ送られたようで、相手方の自宅も判明。尾行さえできれば後は早い。
調べてわかったのが、戦士君とこの女性は同級生で同窓会から急接近した模様、独身で地元の信金に勤める人物だと判明。出勤時と自宅の出入りを写真に収め、基本情報をまとめて終わった。
これで全部揃い、写真も一通り撮影済み。
・戦士君は結婚しており14歳の息子が居た
・奥さんとは結婚して長く、16年にもなる
・別の部屋は遊ぶための場所で、そこに女性を連れ込んでいた
・車の名義はワンルームに連れ込んでいた女性名義になっていた(!)
・自宅にも週の半分以上は帰っている
相当数の写真をまとめ、報告書を作成して依頼者のもとへ行くことに。
婚約破棄
依頼者は全部の報告書を読み終えると、涙を拭いて
「ありがとうございました、吹っ切れないんです。好きだったし、一緒になれると思ってましたから」
「でも、奥さんと子供に申し訳ないのであきらめます」
とだけ言って、依頼料の残額を数えて出すときに、
「このお金は結婚するときに引っ越ししたり、家具を買う予定だったのでもう必要ないです」
「きっと、ワンルームに出入りする女がなにか言ってるんです」
と、少しサッパリした面持ちで私に言いかけました。
意外な依頼
これで終わったかなと思っていると、依頼者から予想外の言葉が飛び出しました。
「この調査報告書の一部、相手女性と一緒の部分の写真を、奥さんに渡してもらえませんか?匿名で」
びっくりしましたが、そういう流れはたしかに想像できなくはありません。探偵業法や、依頼として受けられるのかを検討した結果、法律的な相談でもなく、また、面談によるものという認識で構わないと弁護士からも確認が取れたので訪問することとなった。
「だって、相手の女が全部悪いんです。」
依頼者の最後の言葉が耳に残る。
離婚へ
まさかまた同じ場所に来るとは思わなかった。Kは顔が割れているので自然と私の仕事になった。
私はおそるおそるインターフォンを押すと、中からとても明るい優しそうな女性が出てくる。とある人物から頼まれてこの書類を渡してくれと頼まれたと。また、これはお金なども一切いらない物だ。
そう伝えると、奥さんはなにも疑う事もいぶかしがる事もなく
「そうでしょ?実は、そろそろ興信所に依頼しようと思ってたんです」
と、アッサリとそれを認めたのです。
「助かりました、その方にお礼を言っておいてください」
奥さんに深々と頭を下げて依頼者へも一報を入れて調査は終わりました。
後にも先にも調査対象宅へ報告書を届けたことはありません。
その後
2ヶ月ぐらい経ったのでしょうか。依頼者から連絡があり、きっぱりと戦士君とは別れたこと(奥さんがいる事を知っているとは最後まで言わなかったそう)
そして、新しい彼がゲーム内でみつかったという事の電話をいただきました。(今度は相手に気を付けてくださいね)とは言えず、「幸せになってくださいね」とだけ伝えて電話を切りました。
まとめ
オンラインゲームだと、仮想現実で普段と違う自分を演じられます、文字だけですから何を言ってもわかりません。身長や容姿、住んでいる場所すら文字では本当かどうかわかりませんよね。事実関係の確認ができない上に相手の素性がわからないので注意が必要です。人生を賭ける話であれば、最低限
・相手の素性(勤務先、氏名、自宅、学歴)
・普段の生活
・日常のリアルな性格(ゲームとは異なることがあるのです)
を実際に付き合ってみて、よく見ることが必要じゃないのかなと思います。
それでも不安だったら、事前に婚前調査という形で依頼をされてはいかがでしょうか。
長編になりましたが、読んでいただきありがとうございました。